怪談・怖い話 体験談

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記憶の迷宮

私の娘、美咲が失踪してから3年が経った。
警察の捜査は行き詰まり、私たち夫婦の人生は停止したままだった。毎日が生きる地獄だった。

そんなある日、見知らぬ男から一通のメールが届いた。
「お嬢さんの居場所を知っています。会いませんか?」
半信半疑でメールの指定場所に向かった私を待っていたのは、やつれた中年男性だった。彼は震える声で語り始めた。
「私には特殊な能力があります。他人の記憶に入り込めるんです」
荒唐無稽な話に怒りが込み上げたが、彼は続けた。
「あなたの記憶を通じて、お嬢さんを探せるかもしれません」
藁にもすがる思いで、私は同意した。
男は私の目をじっと見つめ、「あなたの記憶に入ります」と言った。

次の瞬間、私の意識は暗闇に包まれた。
目を開けると、そこは3年前の我が家のリビングだった。
美咲が笑顔で宿題をしている。懐かしさで胸が痛んだ。
男の声が響く。「これはあなたの記憶です。美咲ちゃんが失踪する直前の日々を丹念に見ていきましょう」
私たちは記憶の中を歩き回った。美咲の日常、学校での様子、友達との遊び...しかし、手がかりは見つからない。
「もっと昔の記憶まで遡りましょう」と男が言う。
私たちは更に過去へ...
突然、見知らぬ光景が広がった。
薄暗い地下室。泣き叫ぶ少女。彼女を押さえつける大きな影。
「これは...」戸惑う私に、男が告げる。
「あなたの抑圧された記憶です」
衝撃が走る。まさか、私が...?
「違う!」叫ぶ私。「これは私の記憶じゃない!」
男の表情が歪んだ。「本当にそうでしょうか?」
混乱する私。しかし次の瞬間、恐ろしい事実に気づいた。
男の顔が、徐々に変化している。幼い美咲の顔に...
「お父さん、どうして私を閉じ込めたの?」
悲しみに満ちた美咲の声。
激しい頭痛と共に、押し寄せる記憶の断片。
地下室に閉じ込めた美咲。彼女の叫び声。罪の意識。記憶を封印した自分。
「嘘だ!」絶叫する私。

目を覚ますと、私は自宅のソファに座っていた。携帯電話には、見知らぬ男からのメールの着信履歴すらない。
全てが夢だったのか?それとも...
玄関のドアが開く音。妻が帰ってきた声がする。
「あなた、地下室の鍵、見なかった?」
私の体が凍りつく。我が家に地下室なんてなかったはず。
妻が続ける。「扉に鍵をかけっぱなしみたい。中から物音がするの」
恐怖で立ち上がれない私。
地下室のドアを開ける音。
妻の悲鳴。
そして...懐かしい声。
「お父さん...やっと出られたよ...」