祖母が亡くなってから1ヶ月後、私は実家に戻り遺品整理を手伝うことになった。
祖母は生前、誰も入れさせなかった屋根裏部屋があった。「年寄りの思い出の品だよ」と笑っていたが、今回はその部屋も整理することになった。
埃まみれの屋根裏で、私は古びた木箱を見つけた。開けてみると、中には数十体の紙人形が入っていた。全て手作りで、それぞれに名前が書かれている。不思議に思いながら、一つを手に取った。
その瞬間、激しい頭痛に襲われた。目の前に映像が浮かび上がる。
見知らぬ男性が路上で転倒し、車にはねられる光景。その男性のワイシャツには、紙人形と同じ名前の刺繍があった。
驚いて紙人形を箱に戻すと、頭痛は治まった。動揺しながらも、別の人形を手に取る。
今度は若い女性が崖から転落する映像。そして次は老人が睡眠薬を大量に飲む場面。
恐ろしい予感がした。これらの紙人形は、人の不幸や死を表しているのではないか。
箱の底に、祖母の日記があった。震える手でページをめくると、そこには衝撃の告白が綴られていた。
「私には、紙人形を作ることで人の運命を操る力がある」
日記によると、祖母は若い頃からこの力に苦しんでいたという。意図せず作った人形が、実在の人物の不幸を引き起こしてしまうのだ。
しかし、ページをめくるうちに、もっと恐ろしい事実が明らかになった。
祖母は次第にその力を制御できるようになり、最後には意図的に使うようになっていったのだ。
「家族を守るためなのです」そう書かれていた。
家族に危害を加えそうな人物、家業を脅かす競争相手、孫たちをいじめる同級生...。祖母は、家族を守るために、多くの人の運命を狂わせていたのだ。
戦慄が走る。私たち家族の幸せは、これらの犠牲の上に成り立っていたのか。
そして日記の最後のページに、私の名前を見つけた。
「最愛の孫よ。あなたにこの力を託します。家族を守ってください」
混乱する私。しかし次の瞬間、紙が指先からするすると伸び、人形の形を作り始めた。
紙人形を作る感覚が、まるで生まれながらにしてそうしてきたかのように自然だった。
恐怖と罪悪感、そして不思議な高揚感。相反する感情が私の中で渦巻く。
そして気づいた。今、私の頭に浮かんでいるのは、親友の顔だった。最近、彼女が私の婚約者に好意を寄せているのではと疑っていた。
紙人形は完成に近づいている。
止めるべきか、それとも...
人形はまるで私を見つめているかのようだ。
祖母の呪いは、新たな世代へと受け継がれようとしていた。