あれは去年の夏のことだった。私は一人暮らしを始めたばかりで、古いアパートの2階に住んでいた。
その夜、激しい雷雨で目が覚めた。時計を見ると午前3時。ふと、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう?こんな時間に?
恐る恐るドアスコープを覗くと、そこには見知らぬ老婆が立っていた。びしょ濡れで、顔を俯かせている。
「どちら様ですか?」と声をかけると、老婆はゆっくりと顔を上げた。
その瞬間、私は息を呑んだ。老婆の目が、真っ黒な空洞だったのだ。
震える手でチェーンロックをかけ、背を向けた瞬間、ドアを叩く音が激しくなった。そして、老婆の声が聞こえた。
「開けておくれ...開けておくれ...」
その声は、人間のものとは思えなかった。
パニックになった私は、警察に電話をしようと携帯を手に取った。しかし、画面に映ったのは、背後に立つ老婆の姿だった。
振り返る勇気はなかった。ただ、冷たい息が首筋に当たるのを感じた...
それ以来、私は二度と一人では眠れなくなった。そして、真夜中のノック音におびえる日々が続いている。