怪談・怖い話 体験談

怪談・怖い話 体験談

隣人の正体

私が新しいアパートに引っ越してきたのは、春のことだった。隣室に住む中年の男性は、いつも優しく挨拶をしてくれる好人物だった。しかし、夜になると奇妙な物音が聞こえてくるのが気になっていた。

ある夜、その音が特に大きくなった。壁を叩く音、何かを引きずる音、そして...かすかな悲鳴。私は警察に通報しようと電話を手に取ったが、その瞬間、音は突然止んだ。

翌朝、階段で隣人とすれ違った。彼は普段と変わらない笑顔で挨拶をしてきた。しかし、その手には大きな黒いゴミ袋が...。「ゴミ捨て場はあっちですよ」と教えようとした瞬間、袋の中で何かが動いた。

その日から、隣人の様子がおかしくなった。廊下ですれ違うと、異様な笑みを浮かべて私を見つめてくる。そして夜な夜な、あの奇妙な音が続いた。

一週間後、私は勇気を出して隣室のドアをノックした。返事はない。しかし、ドアが少し開いているのに気づいた。恐る恐る中を覗くと、そこには...。

血の跡と、床に散らばる人骨。壁には無数の爪痕。そして部屋の中央には、大きな生け簀のようなものがあった。中には、人間とは思えない、歪んだ姿の生き物が蠢いていた。

私が悲鳴を上げた瞬間、背後から声がした。
「やあ、隣人くん。僕の趣味を見てしまったね」

振り返ると、隣人が立っていた。しかし、その姿は人間のものではなかった。皮膚が溶けたような顔、異常に長い手足、そして全身から生えた触手...。

「君も、僕のコレクションに加わってくれるかい?」

その言葉とともに、無数の触手が私に襲いかかった。私は必死に逃げようとしたが、足が動かない。体が溶けていくような感覚...。

気がつくと、私は生け簀の中にいた。隣の個室には、先週まで向かいの部屋に住んでいた女性がいる。彼女の体は半分魚のように変容していた。

「ようこそ、僕の水族館へ」隣人の声が響く。「心配しないで。君たちは最高の標本になるよ。永遠に...ね」

その瞬間、私の意識は闇に包まれた。

...今、この文章を書いているのは、果たして人間の「私」なのだろうか。それとも...。
あなたの隣人は、本当に人間ですか?