私は大手警備会社で防犯カメラのモニタリングを担当している。夜勤の仕事で、主に商業施設や公共の場所に設置されたカメラの映像をチェックする。異常があれば警察や現場の警備員に連絡するのが私の役目だ。
先月の木曜日、いつもと変わらない夜勤が始まった。モニターには十数か所の監視カメラの映像が映し出されている。深夜2時を回り、ほとんどの場所が人気のない状態だった。
そんな中、ある公園の映像が目に留まった。深夜にもかかわらず、ベンチに座っている人影があったのだ。不審に思い、その映像に注目した。
人影はじっと動かない。まるで人形のようだった。カメラがパンすると、その人影の顔がはっきりと映った。それは若い女性で、目を見開いたまま前を凝視していた。その異様な様子に背筋が寒くなった。
すぐに現場の警備員に連絡し、状況を確認してもらうことにした。しばらくすると警備員から連絡が入った。
「現場に到着しましたが、ベンチには誰もいません」
困惑しながらも、私はもう一度モニターを確認した。しかし、そこにはまだ同じ女性の姿があった。私は警備員に、もう一度よく確認するよう依頼した。
すると警備員の声が震えながら返ってきた。
「本当に誰もいないんです。でも…ベンチの上に何か書かれています」
私は息を飲んだ。「何て書いてあるんですか?」
警備員の返事に、私の血の気が引いた。
「"私はここにいます"…そう書いてあります」
その瞬間、モニターの中の女性がゆっくりと私の方を向いた。画面越しに私と目が合った。そして、にやりと笑った。
パニックになった私は、警備員に即座に現場から離れるよう指示し、警察に通報した。
それから数日間、私は眠れない日々を過ごした。あの晩以来、女性の姿を見かけることはなかったが、時折モニターの端に人影のようなものが映るような気がして仕方がなかった。
一週間後、私は会社に呼び出された。重役たちが深刻な顔で待っていた。
「先週の木曜日の夜、あなたが見た映像について話があります」
私は緊張しながら話を聞いた。
「実は、その公園のカメラは先月の工事で撤去されていたんです。あなたが見ていたのは、存在しないはずのカメラからの映像だったんです」
私の頭の中が真っ白になった。それじゃあ、あの晩私が見ていたものは一体…?
その日以来、私は防犯カメラのモニタリングの仕事を辞めた。しかし、今でも夜中に目が覚めると、部屋の隅に誰かが立っているような気がしてならない。そして、その度に頭の中でアノ女性の声が響く。
「私はここにいます」