怪談・怖い話 体験談

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地下室の呼び声

私が住む古い一軒家には、使われていない地下室があった。祖父の代から受け継いだこの家で、地下室の扉は常に鍵がかけられ、誰も立ち入ることはなかった。

ある夜、突然の物音で目が覚めた。時計は午前3時33分を指していた。耳を澄ますと、かすかに聞こえてくる音。それは地下室から聞こえているようだった。
恐る恐る階段を降り、地下室の扉の前に立った。鍵は相変わらずかかっている。しかし、確かに内側から何かが聞こえる。まるで誰かが爪で引っかいているような音だった。
「誰かいますか?」と声をかけたが返事はない。代わりに、引っかく音が激しくなった。私は震える手で鍵を開け、ゆっくりと扉を開いた。

暗闇の中、階段が下へと続いている。懐中電灯を手に、一歩一歩降りていく。階段を降りるたび、温度が急激に下がっていくのを感じた。
地下室の中央に着くと、そこには一つの古い鏡が立てかけられていた。鏡に映る自分の姿を見て、私は息を呑んだ。背後に誰かが立っていたのだ。
振り返ると、そこには誰もいない。しかし、鏡を見ると、確かに私の後ろに人影が見える。それも一人ではない。複数の影が、じっと私を見つめている。

パニックになって階段へ走ろうとした瞬間、鏡の中の影たちが動き出した。彼らは鏡の表面に手をつけ、まるでそこから這い出してくるかのようだった。
私は必死に階段を駆け上がった。背後から、ガラスが割れる音が聞こえた。振り返ると、影たちが鏡から出てきて、こちらに向かって這ってくる。その姿は人の形をしているが、顔は歪み、体は黒い霧のようにうねっていた。
やっとの思いで地下室から出て扉を閉めた。鍵をかけ、全身の重みでドアに寄りかかる。すると、内側から激しい衝撃が始まった。まるで大勢の人が同時にドアを叩いているかのようだった。
「開けて」「外に出してくれ」「助けて」という声が聞こえてきた。その声は、どこか聞き覚えのあるものだった。祖父や祖母、そして幼い頃に亡くなった叔父の声...。

私は耳をふさぎ、その場に座り込んだ。夜が明けるまで、衝撃と叫び声は止まなかった。
朝になり、恐る恐る地下室を確認すると、そこには何もなかった。鏡は割れておらず、床に足跡もない。しかし、鏡に近づくと、表面がわずかに歪んで見えた。そして、よく見ると、鏡の中に無数の顔が浮かんでは消えるのが見えた。

それ以来、私は地下室に降りることはなくなった。しかし、毎晩3時33分になると、地下室から引っかく音が聞こえてくる。そして鏡の中の存在たちは、今も私を待っているのだ。
時々、家の中を歩いていると、鏡や窓ガラスに映る自分の後ろに、黒い影が見えることがある。振り返っても何もないのに、またガラスを見ると、そこにいるのだ。
今、この話を書いている間も、モニターの画面に映る自分の後ろに、何かが見える気がする。でも、振り返るのが怖い。だって、もし本当に何かがいたら...。