怪談・怖い話 体験談

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山奥の小さな村で起きた失踪事件

私が警察官になって3年目の夏のことだった。山奥の小さな村で起きた失踪事件の捜査に携わることになった。

その村は、周囲を深い森に囲まれた人口わずか200人ほどの集落だった。ここ数ヶ月で5人の住民が忽然と姿を消したという。不可解なのは、どの失踪者も家族や仕事、借金などの問題を抱えておらず、失踪する理由が見当たらなかったことだ。
現地に到着して最初に気づいたのは、異様な静けさだった。夏なのに虫の声も鳥のさえずりも聞こえない。村人たちは皆、怯えたような目つきで、我々の質問にもろくに答えようとしなかった。

3日目の夜、同僚と手分けして村はずれの森を捜索していた時のことだ。私は一人で獣道のような細い道を進んでいた。懐中電灯の明かりだけが頼りの、漆黒の闇の中だった。
その時、目の前の木の幹に何かが引っかかっているのに気がついた。近づいてみると、それは人間の皮だった。まるで蛇が脱皮したように、頭から足先まで、完全な人型のまま剥ぎ取られていた。
恐怖で体が硬直する中、背後で枝の折れる音がした。振り向くと、そこには「何か」がいた。人の形をしているが、明らかに人ではない。皮膚がなく、赤黒い筋肉と内臓が剥き出しになっている。その顔には目も鼻も口もなく、ただ平らな肉の塊だった。
私は悲鳴を上げて走り出した。しかし、その「何か」はものすごい速さで追いかけてきた。木の間を縫うように動く姿は、まるで森と一体化しているかのようだった。

必死に走って村に戻ると、そこで目にしたのは更なる悪夢だった。村人たちが家々から這い出してきていたのだ。しかし、彼らも皆、皮膚のない「何か」に変わっていた。
「仲間に、なれよ」と、彼らは口のない顔で語りかけてきた。その声は頭の中に直接響いてくる。
私は警察車両に飛び乗り、全速力で村を脱出した。途中、バックミラーに映る村の姿が、まるで霧に溶けるように消えていくのを見た。

翌日、応援を連れて村に戻ったが、そこにはもう何もなかった。建物も、道路も、人々も、全てが消え失せていた。あるのは鬱蒼とした森だけ。

この事件は未解決のまま葬り去られた。誰も私の話を信じようとしなかったからだ。しかし、今でも夜になると、あの「何か」の姿が目に浮かぶ。そして、時々耳元でささやく声が聞こえる。
「そろそろ、君の番だ」