私は海洋生物学者のサラ・ブラウン。この記録が誰かの目に触れることを祈りながら、最後のレポートを記す。
2週間前、私たち5人の研究チームは深海調査船『アビス号』で、マリアナ海溝の未知の領域の調査に向かった。目的は、新種の深海生物の発見と、海底に眠る未知の資源の調査だった。
潜航を開始して3日目、深度11,000メートルを超えたあたりで、ソナーが奇妙な反応を示し始めた。巨大な何かが、ゆっくりと動いているようだった。
さらに潜航を続けると、目の前に信じがたい光景が広がった。古代の巨大都市の遺跡だ。人類の歴史に記録されていない、途方もなく古い文明の名残が、闇の底で眠っていたのだ。
好奇心に駆られた私たちは、遺跡の調査を始めた。しかし、それが過ちだった。
最初の犠牲者はエンジニアのジョンだった。彼は遺跡の中に入り込み、奇妙な彫刻を触った直後、激しい痙攣を起こして倒れた。そして、彼の体から何かが...生まれ出た。ジョンの肉体を引き裂いて現れたそれは、私たちの想像を絶する異形の生き物だった。
パニックに陥った私たちは急いで『アビス号』に戻ろうとしたが、既に手遅れだった。遺跡全体が動き始めたのだ。眠りから覚めた古代の存在が、私たちを捕食者のように追いかけてきた。
今、残されたのは私一人。他のクルーは皆、あの「何か」に捕らえられてしまった。酸素も、食料も、電力も残り少ない。
そして、船体に何かが這い寄る音が聞こえる。まるで、意思を持った粘液のような何かが、ゆっくりと『アビス号』を包み込んでいくようだ。
私にはわかる。これは単なる発見ではない。私たちは、決して目覚めさせてはならないものを目覚めさせてしまったのだ。そして今、その存在は地上を目指して動き始めている。
この記録を見つけた誰かへ。決して、深海の底を覗こうとしてはいけない。闇の中で眠る太古の恐怖を、二度と目覚めさせてはならない。そして、もし海底から奇妙な音が聞こえ始めたら...もう、手遅れかもしれない。