怪談・怖い話 体験談

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永遠の檻

私は遺伝子工学の研究者として、人類の進化の可能性を追求してきた。そして2年前、画期的な発見をした。人間の細胞分裂を無限に続けさせる遺伝子の特定に成功したのだ。
理論上、この遺伝子を持つ人間は不老不死になる。しかし、倫理的な問題から人体実験は許可されなかった。

ある日、末期がんで余命僅かだった私の妻が、実験台になると言い出した。「あなたと永遠に生きたい」と。
倫理も法も無視して、私は妻に遺伝子治療を施した。
最初の数ヶ月は奇跡のようだった。妻のがんは消え、若々しさを取り戻していった。

しかし半年後、異変が起きた。
妻の細胞分裂が止まらなくなったのだ。腫瘍のように、体の至る所で細胞が増殖を始めた。
痛みで絶叫する妻。私は必死に治療法を探したが、細胞の暴走を止めることはできなかった。
そして恐ろしいことに、妻の意識は残ったままだった。

増殖した細胞は、やがて人型をなさないほどに膨れ上がった。醜い肉の塊と化した妻は、今も研究所の地下で生き続けている。
毎日注射で栄養を与え、せめて痛みだけでも和らげようと鎮痛剤を投与し続けている。
妻はもはや言葉を発することはできないが、その目は私を見つめ、「殺して」と訴えかけているように見える。

しかし、どんなに願っても妻を死なせることはできない。細胞が死んでも即座に再生してしまうのだ。
妻を解放することも、この事実を世間に明かすこともできない。そんな日々が2年間続いている。
先日、恐ろしいことに気がついた。私の体にも、同じ症状が現れ始めているのだ。
きっと、妻の体液に触れた際に感染したのだろう。
もはや後戻りはできない。

私たちは永遠に生き続ける。いや、永遠に苦しみ続けるのだ。
この呪われた不死から逃れる術はないのか。
今も地下室から、かすかに妻の悲鳴が聞こえてくる。
そして、私の左手の指が、ゆっくりと、しかし確実に膨れ上がり始めている...